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第16回 運用コストダウンとサービス早期立ち上げの両立(2)~プライベートクラウド

「安く・速く・良く」が現在のシステム導入・運用・保守に求められる必要条件であり、しかもその要求レベルは年々高くなっています。このような状況で注目が集まっている技術トレンドの1つが、プライベートクラウドです。前回から3回にわたって、プライベートクラウドの現状と導入の勘所を説明しています。

(注)第15回の本文でも触れていますが、本稿における「プライベートクラウド」は、社内にクラウド同様の仮想サーバー環境を構築するという従来の意味だけではなく、ベンダーのデータセンターに専用の仮想サーバー環境を構築し、運用・保守も含めて委託するということまでを含む広い意味で使用しています。


第16回 運用コストダウンとサービス早期立ち上げの両立(2)~プライベートクラウド


あるグループ企業のプライベートクラウド事例

埼玉県にある従業員約280人のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業、YMC電子工業(仮名、以下YMC)。同社の顧問ITコンサルタントである美咲いずみ(仮名)は、週はじめのシステム部門の定例ミーティングに参加した後、同社の山田昭(仮名)CIO兼システム部長の相談を受けるという形態のコンサルティングをしている。

今回の山田CIOの相談は、システムの運用・保守コストを削減しながら、新サービスの提供を早期化したいというものだ。それに対して、いずみは1つの選択肢としてプライベートクラウドの検討を薦めていたのである。

「大きな概念は理解していただけたということですので、今度は事例をもとに使われ方や効果について説明します。ある大きなグループ企業の事例です。名前はお出しできないので、Aグループ(仮名)としますね」

Aグループは、大きく6つの事業体を持ち、それぞれに主幹会社がある。グループに属する企業は総計で約50社、連結売上は約2兆円だ。ICTシステムはAホールディングスが取りまとめているが、インフラ部分の共有化を進めている段階であり、業務アプリケーションについては、事業体あるいは各企業単位で導入・運用をしている。

「そんな大きな企業グループの話が、YMCの参考になるのだろうか?」と山田が疑問を口にした。

いずみは、「逆に大きな企業体のほうが慎重に小さなところから始めるので、参考になる事例が多いんです」と答える。

メールサーバーの切り替えをきっかけに

「Aグループの主幹会社の1つB社(仮名)は、オンプレミスでメールサーバーを導入し管理していたのですが、サーバー機のサポート終了の時期がきたので切り替えを検討しました。なお、運用・保守はZ社(仮名)というシステムインテグレーターにアウトソーシングしていましたが、アカウントの追加・削除やアプリケーション保守などの業務面だけで、サーバーは自社に置いて管理していました」

Aグループでは、Aホールディングスと主幹会社の情報システム部門の現場責任者レベルが集まるICTインフラ検討会があり、B社は検討会の場で新しいメールサーバーの導入・運用・保守も引き続きZ社に委託してよいかと打診した。すると、Aホールディングスから待ったがかかったのだという。

「メールサーバーといえば、重要なICTインフラの1つだから、この機会にグループ全体で共有する方向で検討しないかという話になったんです」

「ふむ」

「B社は24時間365日業務を停止できない会社で、メールは連絡のためのインフラとして、かなりのカスタマイズをしていました。そのため事業継続性の観点から、当時も今も使っているExchange Server(マイクロソフト社のメールサーバー製品)は引き続き使用したい。グループ他社でそこまでメールのしくみを作り込んでいる会社もなかったのと、多くの会社が同じ製品を使っていたこともあり、その前提は承認されました」

ただ、メールのしくみを一斉に切り替えるのは、さまざまなリスクがあるので、ほかの企業はサーバー廃止のタイミングで、B社と同じしくみに乗り換えていくという方針になった。

「それは妥当な方針だね。僕でもそうするだろう。だが、そうなると拡張性の高いインフラにしないといけないね」

「ご明察です。それでクラウドを活用しようということになりました」

クラウドは拡張性が高い

「拡張性の高いインフラだと、なぜクラウドなのだろう」と山田が聞く。実は分かっているのだが、おさらいの意味だろう。

「はい。オンプレミスであれば、新たにグループ企業が入ってくるタイミングで、新しいサーバー機を導入する必要があります。しかし、これがクラウドサービスであれば、リソースを追加してもらうようにサービスベンダーに依頼するだけでいいからです。導入も楽ですし、何よりも資産管理の手間が省けます」

サーバーなどの資産管理は、ユーザー企業にとっては手間暇がかかるうえに、業績向上には何も寄与しないため、もっとも削減したい業務の1つである。

「うむ。で、Aグループではどのような選択肢を検討したんだい?」

「パブリッククラウドとしては、マイクロソフト社が提供しているOffice 365を候補にしました。Exchange Serverとの親和性が極めて高いのは言うまでもありませんし、世界最大級のICTベンダーの1つですから、セキュリティも可用性も問題ないとの判断です。もう1つはZ社のプライベートクラウドサービスでした。これは業務を理解しているためで、他社のサービスはチェンジコストが高いため検討の対象になりませんでした」

「2つの選択肢が残ったということだね。どういう検討経緯になったのだろう?」

プライベートクラウドの意外な効果

「Office 365に切り替えたとしても、結局はZ社に運用・保守を委託することには変わらないので、単純にクラウドのコストだけで比較するとOffice 365のほうが有利でした」

「うむ。専任の社員を運用・保守に張り付けるよりも、Z社に頼むほうが安くて確実だものね。でも、プライベートクラウドの事例だから結局はZ社のクラウドになったんだろう?」

「はい。理由は、Office365を利用する場合には、新たにグループ企業が乗り換えてきたときにネットワーク帯域を広げ、新規にファイアウォールやキャッシュに使用するアプライアンス・サーバーを導入しなければならないと判断されたからです。そもそもが資産管理の手間をできるだけ省きたいということで、それはやめたいということになりました」

「そういうことか。それに万が一の障害が発生したときのサポートも、Z社のクラウドのほうが良かったんだろうね」

「おっしゃるとおりです。実際、障害が発生したときのアイドルタイムが以前より短縮されたので、ユーザー部門からの評判が良くなったのだそうです」

「それは、なぜ?」

「オンプレミスのときは、障害発生時のユーザー窓口がシステム部門だったからです。システム部門が状況を把握して、ある程度切り分けをしてからZ社に復旧を依頼する流れでした。ところが、プライベートクラウドサービスだと、ユーザーが直接Z社に障害連絡できるようになったので、システム部門を経由しない分、アイドルタイムが短縮されたというわけです」

「なるほど!」

「これと同じような話なんですが、意外な効果があったとB社の現場責任者の方がおっしゃっていました」

これまで導入作業や移行作業があった場合は、B社の情報システム部門の誰かが必ず立ち会わなければいけなかった。ところが、プライベートクラウドに切り替えたおかげで、その必要がなくなった。

導入や移行は夜間に行われるので徹夜作業となる。だが、立ち会い担当者は朝一番に正常に稼働することを確認するまでは帰宅できない。万が一障害があった場合に担当者が帰宅していたら、迅速な対応ができないからだ。徹夜作業の翌日は法律上代休を取得することになっているので、これは休日出勤となる。このことは情報システム部門の労務管理の大きな課題の1つなのだが、それが解決されたのである。

「労務管理以前に、導入や移行で立ち会いをしなくていいのは初めてのことだったと、現場担当者の方は喜んでおられました」といずみは付け加える。

良いことづくめのようだが…

「検討からサービスインまではどのぐらいかかったの?」

「サーバー切り替えの1年前から検討していたので、1年かかったといえばそうなりますが、検討を重ねてZ社に決定してからは数カ月で移行が完了したと聞いています」

「それは早いね! で、システムの運用コストは下がったのかな?」

「そこはトータルでは変わりはないのですが、サービスレベルが上がったのと、グループ全体のコスト配分になることでB社単独では削減されたので、満足されているようです」

「少なくともコストパフォーマンスは高まったということだね。YMCの場合だと、現状の運用アウトソーシングをプライベートクラウドサービスに切り替えることで、コストが下がりそうな業務はいくつもありそうだ」

「ええ。ただ、良いことづくめのようですが、さまざまな留意点はあるようです」

「うん。次はそれが聞きたかったんだ。その前に10分ほど休憩しよう」

まとめ

  • 事業継続性や拡張性というキーワードでクラウドを採用する企業は多い
  • プライベートクラウドの場合、オンプレミスと比較して、障害対応のアイドル時間が短縮されることがある
  • システム部門にとっては、導入や移行時の立ち会いが不要になり、結果として労務管理が容易になるなどのメリットがある
  • オンプレミスからプライベートクラウドに切り替えることで、サービス提供の早期化や運用・保守のコストパフォーマンスが向上することがある

いずみの目

今回は、メールサーバーのプライベートクラウドへの移行という事業継続性の観点からはとても重要ですが、範囲としては限定的な事例を紹介しました。ただ、技術的には仮想化して移行するだけなので、基幹系システムでも比較的低リスクでプライベートクラウド化することができます。そのような事例がありましたので、ここでご紹介します。なお、「事業継続性」というキーワードが、この事例では特に強調されています。

紹介記事:東急リバブル株式会社様プライベートクラウド構築ソリューション

[ITブレークスルー代表 森川 滋之 記]

* この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
  日立システムズの公式見解を示すものではありません。
* 文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

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