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第24回 IPOのための戦略的IT投資(1)~IPO

成長著しい新興企業が、資金調達やブランディングのために実施するIPO(Initial Public Offering)。IPOにはどのようなタスクが必要であり、その実現のために優先的に導入すべきシステムには、どのようなものがあるのでしょうか?


第24回 IPOのための戦略的IT投資(1)~IPO


山田CIOの紹介で

埼玉県にあるEMS(電子機器の受託生産)企業・YMC電子工業(仮名、以下YMC)の顧問ITコンサルタント・美咲いずみは、同社の山田昭(仮名)CIOの紹介で、東京都港区にあるスマイルソフトを訪れていた。

スマイルソフトは、中堅企業向けのCRM(顧客管理システム)パッケージソフトKIZUNA(仮称)で成長したソフトハウスである。ここ数年間はM&Aなどさまざまな手段を駆使して、前年度比150%の急成長を続けている。2015年から開始したマーケティングオートメーションのクラウドサービスがヒットして、ますます勢いを増している。マーケティングオートメーションとは、マーケティングの各プロセスにおけるアクションを自動化する仕組みのこと。アメリカでは2010年頃から普及が始まり、日本でも2014年頃から急速に拡大しつつある。

現代的なガラス張りの会議室でいずみが待つこと5分、イタリア製の細身のスーツを着こなした、いかにもやり手というイメージの男性が入ってきた。年齢は35歳と山田CIOから聞いている。

「お待たせして申し訳ありません。スマイルソフトの代表取締役社長・神谷隆介です。はじめまして」

YMCはKIZUNAのユーザーであり、山田CIOはCRM活用セミナーで神谷社長と知り合ったという。セミナーの懇親会で大学の先輩と後輩の間柄だと知り、それ以来意気投合しているのだそうだ。いつも会社支給の作業服を羽織っている、服装には無頓着な山田CIOとおしゃれな神谷社長が仲良しだとは――いずみはちょっと不思議な気持ちになった。

「東証マザーズへの上場を考えています」

名刺交換も早々に、神谷社長は用件を切り出した。
「山田さんから話はいっていると思うのですが、実は3年ないし4年後に東証マザーズへの上場を考えています」
「はい。伺っています。将来的には東証一部上場をめざしておられることも。今回参りましたのは、そのための戦略的IT投資のご相談だということも」
「さすが話が早い。山田さんがおっしゃっていたとおりの方のようですね」

企業の初めての株式公開のことをIPO(Initial Public Offering)という。株式公開とは、自社の株式を市場で自由に取り引きできるようにすることで、これにより資金調達の幅が広がる。一方、上場とは株式公開の一種で、証券取引所で株式を売買できるようになることをいう。以前は店頭市場というものがあったため、上場は株式公開の一部だったが、現在では店頭市場がジャスダックという証券取引所になったため同じこととなった。(このコラムでも特に区別しないで使う)。

東京の企業がIPOをする際によく選ばれる証券取引所は、ジャスダックか東証マザーズ(以下マザーズ)である。ジャスダックのほうが上場基準がゆるやかで、主に資金調達が目的の新興企業はジャスダックで上場することが多い。一方のマザーズは、上場基準が若干厳しい分、将来的に東証二部に上場しやすくなっている。したがって、最終的に東証一部に上場して名実ともに日本を代表する企業の1つをめざすのであれば、マザーズに上場することになる。
(正確にいうとジャスダックにはスタンダードとグロースがあり、スタンダードはすでに成長した企業向けで、マザーズよりも上場基準が厳しい。)

「美咲さんは、お若いながらITコンサルタントとしてはきわめて優秀だと、山田さんから伺っています。しかしIPOに関してはいかがでしょうか?」
「はい。専門外ですから詳しくはありません。しかしIPOを考えておられる企業のITコンサルタントが務まる程度の知識であれば、持ち合わせているかと思います」
「それは頼もしい。私はソフトウェア開発と顧客管理やマーケティングの知識については自信があるのですが、会社経営はまだまだ駆け出しで、IPOといってもよく分かっていないのが正直なところです。IPOの手順について教えてもらえませんか?」

(そんなことを知らないはずがない。私の実力を測ろうというのね)といずみは感じたが、実力主義の新興企業のやり手社長ならそれも当然のことだろうと思った。そして、少し緊張しながらも説明を始めた。

IPOに必要な7つのタスク

「どう分類するかは、人によって考え方が違うと思いますが、私はIPOには大きく7つのカテゴリーのタスクが必要だと思います」(表1)。

表1.IPOに必要な7つのタスクカテゴリー

まず、実際にIPOをするのか、目的に則してIPOをすることにメリットがあるのか検討する。メリットがあると判断したら、上場時期と株式公開をする市場(証券取引所)を明確にする。スマイルソフトでは、すでに終わっているタスクだといえる。

次に必要なのは、上場のための体制作りである。上場は法的にもノウハウ的にも難しいことが多く、コンサルタントに相談するのが普通である。また株式公開にはさまざまな事務作業があり、準備室を設けるのが普通である。ただ新興企業の場合は、準備担当者を1人だけ置くケースも多い。さらに法的な理由で、監査法人と主幹事証券会社を決めなければならない。

上場時期の目標が決まったら、その3年前ぐらいまでにやっておくべきことが事業計画の策定である。上場企業らしいビジョンと、継続的な成長が見込めるビジネスモデルを策定し、具体的な事業計画に落とし込む。事業計画はそのとおりに行くとは限らないし、事業環境も常に変化するため、毎年見直すことも必要となる。

最も重要で難しいのが、資本政策の策定である。資金調達のためには発行株式数を増やすことになるが、闇雲に増やすと会社の支配権が維持できなくなるおそれがある。調達資金額と企業支配権維持のバランスを図りながら、増資や株式移動、株式分割などを計画しなければならない。

IPOを考える規模の企業であれば、すでに新規設立やM&Aによる子会社を持っていることが多い。別会社でなければならない明確な理由がない会社は統合する必要があるし、赤字会社は整理する必要がある。口でいうのは簡単だが、社長の強いリーダーシップが必要とされるタスクである。

残る社内体制整備と公開事務は両輪のタスクである。社内体制を整備しなければ公開事務自体が困難となる。また当然だが社内体制整備はIPOのためだけのタスクではない。むしろ上場企業として継続し得る企業になるため、つまりIPO後のために必要なタスクなのである。

いずみがおおよそ以上のとおりの説明を終えると、神谷社長はいう。「さすがですね。IPOの手順についていろいろ調べたけれど、こんなにすっきりした分類は初めて見た。頭脳明晰だと本当に感心しました」
「では、合格ということですね?」といずみは笑みを浮かべた。
「すみません。試してしまって。それも気づかれているだろうなとは思ったのだけど、会社の命運をかけたIPOです。優秀な方でないと相談できません」
「私が優秀かは分かりませんが、社長のご心配は当然だと思います。なにしろ私には、貫禄がありませんから」
「ありがとう。改めてよろしくお願いします」
そういって、神谷社長は深々と頭を下げた。

IPOのための戦略的IT投資

「さて、本題です。たくさんのタスクがあることは分かりました。これらを効率的にこなしていくためにはIT化が必要かと思います。弊社は典型的な『紺屋の白袴』でして、弊社のCRMパッケージとマーケティングオートメーションのツール以外は、業務システムを持っていないんですよ」と神谷社長が打ち明ける。
「給与計算はどうされているのですか?」
「社労士事務所に外部委託しています。ITに関しては、作るほうはプロでも使うほうは素人といっていいでしょう。ということで、ここから先は試そうという話ではありません。まずはどういうシステムが必要なのかから、教えてください」
「優先順位をつけて、戦略的に投資していきたいということですよね?」
「そうです。最優先で投資すべきシステムを教えてください」

いずみは、少し考えてからこういった。
「そうなるとIPOにも必要で、上場後も継続的に必要となるシステムを最優先に考えればいいでしょう。ちょっと待ってくださいね」
いずみはホワイトボードに表を書いた(表2)。

表2.システム化が必要なタスクと対応システム

「いかがでしょうか? こうしてまとめると一目瞭然かと思いますが」
「はい。会計システムが必要なのは明らかですね。あとは文書管理が重要そうです」
「おっしゃるとおりです。会計システムが重要なことは疑う余地がありません。タスクレベル、つまり業務の観点で見たらどうでしょうか?」
「内部統制関係が重たそうですね」
「そうですよね。そこでまずは、会計システムと内部統制関連の2つに絞ってシステム投資をするといいのです。ちょっと休憩してから、この2つについて一緒に考えていきたいと思うのですが」
「分かりました」

まとめ

  • 初めての株式公開のことをIPOという(現在では株式公開と上場は同じことである)
  • 新興企業が上場する際によく選ばれる証券取引所はジャスダック(グロース)か東証マザーズであり、将来的に東証一部上場をめざす企業は東証マザーズで上場することが多い
  • IPOに必要なタスクは大きく、1)検討、2)上場体制整備、3)事業計画、4)資本政策、5)関係会社整備、6)社内体制整備、7)株式公開事務の7つである
  • IPOに必要で、上場後も継続的に使用するシステムを最優先で導入すべきである
  • IPOにおいて優先順位が圧倒的に高いシステムは会計システムであり、業務面で見ると内部統制関係のシステムが重要である

[ITブレークスルー代表 森川 滋之 記]

* この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
  日立システムズの公式見解を示すものではありません。
* 文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

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