ページの先頭です。
ヘッダをスキップして本文へ。

TOPコラムおたすけコンサルタント亀田金太郎が行く > 第10回 「海外進出、はじめの一歩(2)」~ニーズ・差別化の検討~

第10回 「海外進出、はじめの一歩(2)」~ニーズ・差別化の検討~

内需の大幅な拡大が見込めない中で、アジアを中心に海外進出を果たす中小企業が増えています。海外進出では特に事業ドメインを明確にすることが重要になります。今回も、前回に引き続いて事業ドメインについて考えていきましょう。



顧客価値とは?

東京都A区にある社員20名の町工場、大木製作所(仮名)では海外進出を決定した。今日は亀田金太郎の訪問日であり、海外における事業ドメイン(会社が事業活動を行う基本的な領域)を検討しているところだ。

「それでは、次にニーズについて考えていきましょう。ニーズとは、簡単に言うと何を売るかです。」
金太郎の話に専務の大木寛太(仮名)が質問する。

「何を売るかということですが、具体的な製品のことでしょうか、それとも顧客価値を考えるということでしょうか?」

「ニーズに関しては、具体的な製品でいいと思います。」

「あのお…」いずみが手を挙げた。「具体的な製品は分かるのですが、顧客価値って何でしょうか。イメージが湧かなくて。」

「おいおい、コンサルタントがする質問じゃないね」金太郎は笑いながら言う。

「まあまあ…、彼女はITが専門だし、知らないことを素直に聞けるところが長所じゃないかな。知ったかぶりをするよりもよっぽどいいと思うよ」社長の太一(仮名)が助け舟を出す。

金太郎がいずみに説明する。「よく例に挙げられるこんな話があるんだ。ある人が日曜大工で家具を作ろうと思って、材料の板と、板に穴を開けるためのドリルを買いに行った。対応した店員がいろいろと聞いたところ、その人は将来、めったにドリルを使わないだろうと思われた。そこで店員はこう提案した。『お客さまの欲しい物は穴の開いた板ではありませんか?でしたら当方で板に穴を開けて差し上げますが…』とね。」

「なるほど。ドリルが製品で、穴の開いた板が顧客価値なんですね?」と、いずみ。

「ご名答! “便益”や“ベネフィット”と言うこともあるね。どんな場合でも、製品は手段であり、ニーズには目的がある。その目的に当たるものが顧客価値なんだね」金太郎は微笑みながら付け加えた。

「でも、マニアとか収集家と言われる、製品そのものが目的の人もいますよね」と専務。

「その場合でも、レアなものを自慢したい、コレクションを誇りたいという気持ちがありますよね。それが顧客価値に当たります。」

完成品と部品とどちらが有利?

金太郎はさらに続けた。「顧客価値は、どちらかというと“差別化”に関係が深いですね。それを考える前に、具体的な製品を決めることにしましょう。」

「うちは工場だから、工業製品を作ることになると思うのだが、みんなどんなものを売っているのかな?」社長が質問した。

「製造業に関しては統計がありますね」と金太郎は『中小企業白書(2012年版)』を取り出して71ページを開き、「第2-2-6図 輸出企業の業種構成(中小製造業)」を示した。

「うーん、“その他”が半分以上あるから、あまり参考にならないなあ。うちはコネクター作っているから“電気機械器具製造業”だと思うけど、それだと7.9%か…」社長は何か考えている様子でしばらく沈黙していたが、やがてこう質問した。「部品と完成品と、どちらが有利なんだろうか?」

大木製作所は部品製造の会社なので、社長からそういう質問が出るのは意外だったが、金太郎は関係のありそうなところを探してみた。
「『中小企業白書(2012年版)』では第2部第2章第1節が『国内事業を活かし、海外需要を取り込む中小企業』となっていて、1つの節を丸々海外進出に割いていますね(P.68~P.114)。ページ数にして46ページです。その中には製造業の事例が11件出ています。確かに、完成品メーカーも部品メーカーもどちらもあります。しかしどちらが有利かという統計はありませんね。」

「部品メーカーは、完成品メーカーの景気の影響を受けやすいんだ。今の国内の事業を畳む気は毛頭ないんだが、せっかく海外に進出するなら完成品をやれないだろうかとずっと考えていたんだ。ちょっと待ってて」社長は隣の部屋から小さな箱を取ってきた。「試作品だけど、ハンディーターミナル(携帯情報端末)なんだ。これだと、電子部品などのモジュールを仕入れたうえで、うちの技術を生かせる部品とABC製作所(仮名)の部品組み立て技術があれば量産できるんだよ。」

ABC製作所は、事業継承者がいないので、昔からの仕事仲間である大木社長に、社員の雇用維持を条件に譲渡を持ちかけてきている会社だ。

「父さん、いや社長、いつの間にこんなものを?」専務が驚いた様子だ。

「この前、うちよりも小さな会社がバングラデシュにICカードで進出する話をテレビでやっていたんだ。バスの乗降をスピーディーにするICカードに、中流以上の階級を取り込んでいこうという戦略だった。それを見ていて、新興国ではICカードとか無線タグとかバーコードとか、周辺機器を含めてこれから需要が拡大するんじゃないかと思ったんだ。」

差別化も同時に検討する

「確かにニーズはありそうですね」金太郎も興味を示した。

「インフラ整備関係の建設業や物流業者が相手と言っても、いまさら建設機械や電車・バスを作るわけにもいかないからね。かと言って、建設機械用部品とか工事用資材を作るのも面白くない。ハンディーターミナルなら付加価値も高いと思うんだ。使い方のコンサルティングのようなこともできるしね」社長はその試作品の出来栄えに満足げだ。

「このハンディーターミナルで差別化ができるかを同時に検討してみましょう。差別化できそうなら現段階では決まりということで、市場調査に進めばいいと思います。」

いずみも加わって、4人で差別化要因を検討し、次のようにまとめた。


 1.もともと作っている部品を多く流用できるので、低コストで開発・製造できる
 2.品質には自信がある
 3.無線タグやバーコードを使った製品管理のノウハウがあり、コンサルティングや付加価値のある提案が可能

「まだ少し弱いかもしれませんが、可能性は十分ありそうです。ハンディーターミナルで市場調査する価値はありそうですね。いったんこれに決めましょう」金太郎がうれしそうに言う。

「もう1つのことも決めてしまいませんか?」専務が提案した。

「ん?何のことだい?」社長が聞き返した。

「輸出にするか、直接投資、つまり現地法人を設立するかについてです」と専務。

輸出か現地法人か?

金太郎が改めて整理する。「インドネシアに現地法人を設立する際のリスクは3つありました(第9回参照)。『人件費の上昇や人材確保』『法制度等の不明瞭さ』『物流や産業インフラの未整備』です。ただし、物流や産業インフラの未整備は逆にチャンスと捉えようというのが社長の考えでした。私も同感です。」

社長が続ける。「『法制度等の不明瞭さ』で挙げられていたのは、現地法人から日本本社へのロイヤルティーの支払いが認められにくいというものだったね。その代わり配当についてはあまり問題ないようだ。人件費や人材確保については新興国に関してはしかたのないところだろう。日本でも高度経済成長期には、中卒は金の卵ともてはやされた時代があったんだよ。給料はどんどん高くなり、10年で所得倍増という計画だったけど、10年も経たずに達成された。今では考えられないけどね。だからリスクではなく、当然、織り込むべき話だと俺は思う。」

「そうですね、まずメリットを見て、それからリスクを検討するほうがいいですね。それでは、製造業の海外進出における成功要因を見ていきましょう。」

「1つは為替リスクが小さくなることでしょうか。それからリスク分散。仮に本社がつぶれても現地法人は残るかもしれない」と専務が。

「おいおい、縁起の悪いこと言うなよ。でも、確かにそういうメリットはあるなあ」社長が苦笑いしながら言う。

「現地の販売先が何を重視するかも見てみましょう。そちらについては『中小企業白書(2011年版)』に統計があります」金太郎は271ページを開いて「第3-2-33図 現地の主要販売先が重視する嗜好」を示した。

「アジアのほうを見ていきましょう。1位は『機能・性能の高さ』ですが、われわれは製品力で勝負しようと思っているので問題ないでしょう。逆にブランド力が思ったりより重視されていないところにチャンスもありそうですね」金太郎の説明に大木親子がうなずく。

金太郎が続ける。「その国の好みに合うかどうかもあまり重視されていないようですね。食品などは別としても、工業製品であれば日本製だというだけで信頼されているのでしょう。となると、大事なのは2位~4位の3つになるでしょうか。」

専務が引き取る。「『価格の安さ』『きめ細かな対応』『納期の短さ』の3つですね。そうすると、現地法人を設立するほうが有利ということになります。」

「そうだね、現地法人を設立するという方向で市場調査することにしよう」社長も同意した。

その後、4人は市場調査の項目を洗い出した。金太郎が自分の先輩が経営する調査会社を推薦し、実績の多さ、コストがリーズナブルなこと、インドネシアに太いパイプがあることなどから、その会社に決定した。

まとめ

・海外進出をするに当たって、完成品メーカーと部品メーカーとどちらが有利かは一概に言えない。ただし、部品メーカーは完成品メーカーの業績に左右される可能性がある。

・差別化を考えるに当たっては“顧客価値”を中心に考える必要がある。

・直接投資(現地法人設立)と輸出のどちらにするかは、業態、メリット・デメリット、リスクなどを総合的に分析して検討する。現地販売先が重視する要素を考えると直接投資の有利なケースが多いが、これも意思決定の一要素である。

いずみの目

今回は、ほとんど発言できませんでしたが、まだコンサルタントの仕事を始めたばかりなのに、会社が海外進出の方針を決定する場面に立ち会えるなんて、本当にラッキーと思っている美咲いずみです。市場調査の結果が楽しみです。
ところで、海外拠点を設立する際に、意外と面倒なのがIT関連の設備の準備と導入です。交通インフラの整備が遅れている新興国では、ITの必要性は日本より高いかもしれません。ところが回線の手配ひとつをとってもなかなか大変なんです。海外拠点のIT導入のノウハウがある会社に相談するのがいちばんいいと思いますよ

[ITブレークスルー代表 森川 滋之 記]

資料請求・お問い合わせはこちらから

お問い合わせ

利用開始までの流れ

詳しくはこちらから。

利用開始までの流れはこちら