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第11回 海外進出、はじめの一歩(3)~海外進出、企業理念策定~

海外で定着してくれる人を雇うには?

海外で現地法人を設立し、現地の人材を雇用する際には意外なことが重要になります。今回は海外での雇用について考えていきましょう。



市場調査は無意味か?

「大木社長、市場調査の結果は上々だったようですね!」東京都A区にある社員20名の町工場、大木製作所(仮名)の社長室に入るなり、亀田金太郎は大きな声でうれしそうに言った。社長室とはいっても、会議室兼用の小さな部屋だ。

得意先からの注文が減ったことを受けて、大木製作所は新規開拓の営業活動に力を入れるとともに海外進出も決定した。金太郎も加わって、まずは海外における事業ドメイン(会社が事業活動を行う基本的な領域)を検討した(第9回第10回参照)。
その結果、進出先はインドネシア、製品はハンディーターミナル(携帯情報端末)、顧客は現地の物流業者と建設会社とし、付加価値として使い方の提案もしていこうということになった。また、輸出ではなく現地法人を設立して販売していくことにした。
この方針に基づいて、調査会社に市場調査を依頼し、その結果が上々だったと金太郎は聞いていたのだ。

「まあ、アメリカのカリスマ経営者が実は市場調査をしなかったとか、今では有名な飲料会社が市場調査をやったところ『こんな商品売れるわけがない』というリサーチ結果を聞いて社長が『これは絶対売れる』と言ったとか、いろんな話があるけどね」と社長の大木太一(仮名)が笑って言う。

「そういうことを理由に、市場調査は無意味だと言う人も確かにいます。しかし、われわれの場合は、既存製品に付加価値をつけるという方向性ですし、はじめての海外進出ですから、念には念を入れるべきでしょう」

「何でもそうだけど、目的に合った道具になっているかどうかが一番重要なんだろうね。画期的な新商品なら、そもそも市場の意見が当てにならない。それがカリスマ経営者の真意だったんじゃないかな」

「私もそう思います」

「まあ、われわれも将来的には画期的な新製品を作っていくつもりですがね」社長と金太郎のやり取りを聞いていた専務の大木寛太(仮名)が力強く割り込んできた。

金太郎の部下の美咲いずみが「みんな頼もしいなあ」とつぶやいた。

現地の社員を雇うのに意外と重要なこと

「ところでね、せっかく現地に法人を作るんだし、長く続けていこうと思ったら現地のお役にも立たないといけないよね。それには雇用を作っていくことが必要だと思うんだ」と社長。

専務もうなずく。「私も賛成です。というか当然のことだと思うんですよね。全員が日本人従業員というわけにはいきませんから。大切なのは、日本人スタッフと従業員の間に立つ現地のスタッフを早急に確保することだと考えています」

「それはどういう基準で雇おうと考えていますか?」と金太郎。

「まずは現地の法制度や手続きに明るい人。英語ができて、できれば日本語もできる人。人柄がいいことはもちろんですね。あ、当然、仕事ができる人ですね」専務の注文は多い。

「なるほど。確かに、日本人スタッフに支払うぐらいの報酬であれば、そういう人材を見つけることはできるかもしれませんね。しかし、それだけでは長続きしないと思いますよ」

「待遇だけではだめなんですか?」

「尊敬とか共感とか、『一緒にやろう』という気持ちにさせるものがないと長続きはしないでしょうね。もっと待遇のいいところが現れれば、簡単にそちらに移ってしまうでしょう」

「どうしたら、そういうものが得られるんでしょう?」

「現地の人に共感してもらえるような企業理念が必要だと思います」専務の質問に金太郎はこう答えた。

「この事例を見てください」金太郎は『中小企業白書(2012年版)』の92ページ「事例2-2-11 日本的なものづくりを実践しながら、米国の現地法人において高い人材定着率を実現している企業」を示した。「アメリカに進出した企業の事例ですが、アジアならもっと受け入れられやすいのではないかと思います」

「なるほど、“KAIZENの仕方”や“日本式労使関係”などが海外で受けているようだね。理念も一緒に“輸出”しないと受け入れられないのかもしれないね」と言うのは社長だ。

「予定した受注ができず苦境に立たされた時にもリストラを行わず、従業員の技能訓練・技術教育に力を注いだと書かれていますが、これなどは理念なしにはできないことだと思うんです」

「海外進出という意志だけではだめなんだろうね。その意志を支える何か、それを理念と呼ぶのなら、確かに理念が必要だろうね」社長がうなずく。

「もう一つあります」と金太郎が示したのは2011年版289ページ「第3-2-53図 外国人人材を活用するために中小企業が必要と感じる取組」だ。「いちばん多いのが『外国人に日本の職場環境・文化について学ぶ機会の提供』となっています」

「それは企業理念を理解してもらうということなんでしょうね」という専務の言葉で、“大木製作所の企業理念”について検討する準備が整ったようだ。

企業理念の作り方

「企業理念というのは、企業の社会的な使命と、それを実現するための心構えや行動規範をまとめたものですね。これを作るのは意外に大変なことで、何億円ものコンサルタント料を払って作っている企業もあります」

金太郎の話に社長が目を丸くした。「そんな金、うちにはないよ」

「大丈夫です。通常料金でやりますから」会議室に笑い声が響いた。

「私のオリジナルの方法なら、それほど手間もお金もかかりません。では、美咲君、お願いします」

「ええ~?私、企業理念の作り方なんて知りません」いずみが慌てて大声を上げた。

「この前2人で作ったじゃないか」

「えっ?」

「おととい、美咲君が相談に来たじゃないか、『私はどんなコンサルタントをめざせばいいでしょうか』って」

「あの、そんなことお客さまの前で言わないでください」いずみは少し赤くなった。

「ごめんごめん。あの話が、実は企業理念に通じるんだよ」

「あっ、そうか!“自分軸”ですね。あれを会社に当てはめればいいんですね!」いずみが声を弾ませた。

「そのとおり。じゃあ、大木さんに説明してさしあげて」

「はい」いずみは大木親子に向き直った。

「知られてしまったから言いますけど、私、コンサルタントとしてやっていけるかどうか悩んでいたんです。それを金太郎先生に相談したら、こう言われました」いずみはホワイトボードに図(図1)を描きながら続ける。

図1 “自分軸”

「『“誰に、何を、なぜ”提供しているかを突き詰めて考えれば自然と答えが出てくる』。先生はこれを“自分軸”と呼びました」

金太郎が引き取る。「私は職業柄いろいろな会社の企業理念を調べました。それで分かったのは、いい企業理念はこの3つがしっかりしているということだったんです。これは個人の生き方に当てはめることもできるので、美咲君の相談に応用したわけです」

「いきなり理念を考えましょうと言われてブレーンストーミングしてみてもいいアイデアは出ないよね。でも先生の言う方法でなら、われわれにも考えられそうだね」社長は感心したように言う。

企業理念の検討順序

「大木製作所全体ではなく、まずはインドネシアに設立する現地法人の企業理念を考えましょう。その理由はおのずと明らかになると思います。では、美咲君、よろしく」

「はい。まず、検討する順序なんですが…」いずみはホワイトボードに簡単な図を描いた(図2:ただし、数字と矢印は検討順序の説明用)。

図2“自分軸”検討順序

「最初に、“誰に”提供するのかを考えます(図2の1)。これについては、最初の段階では社会的な属性で考えます。業種、職種、性別、年齢といった、分かりやすいものでいいんです」

「“インドネシアの建設会社や運送業者”というのでもいいんですね?」専務が聞く。

「はい、まずはそれで結構です。そこからもう少し詳しく落とし込んでいきます。地域はどうするか、売上規模はどのぐらいかというようなことです」いずみが金太郎の顔を見ると、金太郎は「それでいいよ」というようにうなずいた。

「次に、“何を”提供するのかを考えます(図2の2)」いずみが続ける。

「ハンディーターミナルと、利用方法のコンサルティングでいいのかな?」と今度は社長。

「そうです。価格をどうするか、どんな性能や機能を持たせるのかを検討していきます」

「顧客価値(第10回参照)は考えなくていいでしょうか?」と専務。

「それは重要なポイントです。それについては後ほど取り上げたいと思います。まずは提供商品とそのスペック、メリットなどを考えてから、次に“なぜ”提供しているのかを考えます(図2の3)」

「“なぜ”提供しているのか、か。難しい質問だね」と社長。

「はい。観点は4つあります」いずみはホワイトボードに箇条書きした。


 1.使命系:夢、理想、こだわりなど
 2.ワクワク系:楽しいこと、世の中から喜ばれそうなことなど
 3.人系:影響を受けた人、歴史上の人物の業績、創業者の業績など
 4.思い出系:挫折経験、社長の生い立ち、取り戻したいものなど

「インドネシアについていろいろ調べてみると、俺の若い頃を思い出すんだよ。貧しいけどみんな未来に向かって希望を持っているって感じがするんだ。日本は急速な経済発展があったけど、得たものも失ったものもどちらも大きいと思うんだよなあ。インドネシアには、大きなものを得ても失うものは少ない、そういう発展をしてほしいと思ってるんだ」社長がしみじみと言う。

「それ、いいですね!」聞いていた3人が口を揃えた。

「そういう“なぜ”が出てくると、商品価値以上の顧客価値が出てくるんですね(図2の4)」いずみはそう言ってホワイトボードを指差す。

「例えば、ハンディーターミナルの販売と活用コンサルティングを通してインドネシアの健全な発展に寄与する、みたいな感じでしょうか?」専務が顧客価値を具体化する。

「そんな感じです。先ほど、顧客価値は後で取り上げると言いましたが、“なぜ”ということを検討しないと、今おっしゃったような顧客価値はなかなか出てこないんです」

「なるほど。ところで、顧客価値がはっきりすると、“誰に”もさらに研ぎ澄まされると言えますね」と専務。

「そうですね。“なぜ”を考えると“誰に”も変わってきます(図2の4’)。例えば、“インドネシアの健全な発展を考えている建設業者”みたいに。それは“利益のことしか考えない業者には売らない”ということですね」

「今まで出てきた言葉をもう少し詳細に検討して、それらしい言葉でまとめると、企業理念が出来上がります」いずみが締めくくった。

事業ドメインと理念は非常に近い

「しかし、ずいぶんスラスラと企業理念ができた感じがするね。われわれが優秀だからかな?」社長が冗談めかして言った。

専務が急に気が付いたように言う。「もしかしたら、事業ドメインについて考えていたからでしょうか?(第9回第10回参照)」

「おっしゃるとおりです。実は先ほど『現地法人の“自分軸”をまず考えましょう』と提案したのは、それを理解してほしかったからなんです」金太郎が答える。

「事業ドメインは事業戦略の上位概念に当たります。事業戦略は事業ドメインから導き出されるんですね。ですから企業理念と事業ドメインは非常に近いものなんです」

「それなら、最初に“自分軸”を考えればよかったんじゃないかな」社長が言う。

「前回(第9回第10回参照)の段階で、『それでは“誰に、何を、なぜ”提供するかを考えて企業理念を作りましょう』と言っても、あまり活発な議論にならなかったと思うんです。今回、現地の人材を雇用することについて考えた後だったので、企業理念がまとまりやすかったのではないでしょうか?」金太郎の話に大木親子は大きくうなずくのだった。

いずみはその様子を見ながら、金太郎先生が「コンサルティングは、自分の手法を押し付けるのではなく、まず相手のニーズに応えながら、タイミングよく手法を使うことが必要だ」と言うのはこういうことだったんだ、と感じていた。そして、早くこういうコンサルティングができるように頑張ろうと、改めて心に誓ったのだった。

まとめ

・海外に拠点を築く際には、企業理念がないと長続きしない。

・企業理念を考える際には、“誰に”“何を”“なぜ”提供しているのかという観点で検討するとよい。

・企業理念と事業ドメインは非常に密接な関係がある。

いずみの目

金太郎先生の“むちゃ振り”に思わず大声を上げてしまった美咲いずみです。それなりに大役を努めることができてよかったと思うとともに、新たに誓いまで立ててしまいました。
さて、企業理念は決めるだけではだめ。何度も何度も繰り返して根気強く社員に説くことが大事です。それに加えて、理念を貫く背景についても理解してもらう必要があります。企業理念が考えられた経緯などを、社長や役員が折に触れて語るのが一番ですが、ITも活用できるんですよ。実は第8回でも紹介したeラーニングは、企業理念の浸透にも活用できるツールなんです。海外拠点を視野に入れたeラーニング・サービスもあるんですよ。

[ITブレークスルー代表 森川 滋之 記]

*この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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